夏目漱石《心》1-5

夏目漱石《心》1-5

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时间:2019-07-07

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1、こころ夏目漱石上先生と私一わたくし私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くはばだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先と生」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしいかしらもじ頭文字などはとても使う気にならない。かまくら私が先生と知り合いになったのは鎌倉である。その時私はまだ若々しい書生であった。暑中休暇を利用して海水浴に行った友達からぜひ来いというはがきくめん端書を受け取ったので、私は多少の

2、金を工面して、出掛ける事にした。私にさんちたは金の工面に二、三日を費やした。ところが私が鎌倉に着いて三日と経たないうちに、私を呼び寄せた友達は、急に国元から帰れという電報を受け取った。電報には母が病気だからと断ってあったけれども友達はそれを信じなかった。すすし友達はかねてから国元にいる親たちに勧まない結婚を強いられていた。彼はかんじん現代の習慣からいうと結婚するにはあまり年が若過ぎた。それに肝心の当人が気に入らなかった。それで夏休みに当然帰るべきところを、わざと避けて東京の近くで遊んでいたのである。彼は電報を私に見せてどうしようと

3、相談をした。私にはどうしていいか分らなかった。けれども実際彼の母が病気であるもととすれば彼は固より帰るべきはずであった。それで彼はとうとう帰る事になった。せっかく来た私は一人取り残された。だいぶひかず学校の授業が始まるにはまだ大分日数があるので鎌倉におってもよし、と帰ってもよいという境遇にいた私は、当分元の宿に留まる覚悟をした。友達はむすこ中国のある資産家の息子で金に不自由のない男であったけれども、学校が学校なのと年が年なので、生活の程度は私とそう変りもしなかった。したがってひとりかっこう一人ぼっちになった私は別に恰好な宿を探す面

4、倒ももたなかったのである。へんぴたまつ宿は鎌倉でも辺鄙な方角にあった。玉突きだのアイスクリームだのといなわてうハイカラなものには長い畷を一つ越さなければ手が届かなかった。車で行っても二十銭は取られた。けれども個人の別荘はそこここにいくつでも建てられていた。それに海へはごく近いので海水浴をやるには至極便利な地位を占めていた。くすわらぶきあいだ私は毎日海へはいりに出掛けた。古い燻ぶり返った藁葺の間を通いそへんり抜けて磯へ下りると、この辺にこれほどの都会人種が住んでいるかと思せんとううほど、避暑に来た男や女で砂の上が動いていた。ある時は

5、海の中が銭湯のように黒い頭でごちゃごちゃしている事もあった。その中に知った人を一人にぎつつねももたない私も、こういう賑やかな景色の中に裹まれて、砂の上に寝そべひざがしらはまわってみたり、膝頭を波に打たしてそこいらを跳ね廻るのは愉快であった。ざっとうあいだ私は実に先生をこの雑沓の間に見付け出したのである。その時海岸かけぢゃやはずみなには掛茶屋が二軒あった。私はふとした機会からその一軒の方に行き慣はせへんめいめいれていた。長谷辺に大きな別荘を構えている人と違って、各自に専有のきがえばこしら着換場を拵えていないここいらの避暑客には、ぜひ

6、ともこうした共同着ふう換所といった風なものが必要なのであった。彼らはここで茶を飲み、ここでほかしおからだ休息する外に、ここで海水着を洗濯させたり、ここで鹹はゆい身体を清かさめたり、ここへ帽子や傘を預けたりするのである。海水着を持たない私にもいっさい持物を盗まれる恐れはあったので、私は海へはいるたびにその茶屋へ一切ぬすを脱ぎ棄てる事にしていた。二わたくし私がその掛茶屋で先生を見た時は、先生がちょうど着物を脱いでこれぬからだから海へ入ろうとするところであった。私はその時反対に濡れた身体を風にあいださえぎ吹かして水から上がって来た。二人

7、の間には目を遮る幾多の黒い頭が動いていた。特別の事情のない限り、私はついに先生を見逃したかも知れなかほうまんった。それほど浜辺が混雑し、それほど私の頭が放漫であったにもかかわつらず、私がすぐ先生を見付け出したのは、先生が一人の西洋人を伴れていたからである。いなその西洋人の優れて白い皮膚の色が、掛茶屋へ入るや否や、すぐ私の注意ひゆかたしょうぎを惹いた。純粋の日本の浴衣を着ていた彼は、それを床几の上にすぽりほうはと放り出したまま、腕組みをして海の方を向いて立っていた。彼は我々の穿さるまたほかく猿股一つの外何物も肌に着けていなかった。私

8、にはそれが第一不思議ゆいはまだった。私はその二日前に由井が浜まで行って、砂の上にしゃがみながら、ながしり長い間西洋人の海へ入る様子を眺めていた。私の尻をおろした所は少し小わきじっ高い丘の上で、そのすぐ傍がホテルの裏口になっていたので、私の凝としあい

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